【読書感想文】小林郁『新編 鳥島漂着物語 18世紀庶民の無人島体験』
今回は小林郁さんの著作『新編 鳥島漂着物語 18世紀庶民の無人島体験』についての読書感想文です。
歴史書でもあり、小説のようでもあり、ライフハック本のようでもあり…不思議な魅力がたくさんの本です。
『新編 鳥島漂着物語』書籍情報
出版年 | 発行年:2003年6月 新編発行:2018年8月4日 |
ジャンル | 歴史 |
著者 | 小林郁 |
『新編 鳥島漂着物語』を手に取った理由
この本はKindle Unlimitedで出てきたので読んでみました。
元々は別の本がないか探していましたが見つからず、代わりに関連情報として出てきたのがこの本でした。
そのとき探していたのがなんという本だったのか、今は忘れてしまっています…
Kindle Unlimited対象だったので軽い気持ちで入れて読んでみたら、読む前には想像しなかった面白さがそこにはあったのです!
私は普段、歴史の本はあまり読みません。
歴史本やノンフィクションが嫌いなわけではなく、他の小説や自己啓発本、ライフハックなどを手に取りがちなのです。
それでもこの本が面白かったので、紹介したいと考えこの記事を書くことにしました。
『新編 鳥島漂着物語』で最も響いた部分
この本は江戸時代の様々な記録を元に、小笠原諸島のやや北西にある無人島・鳥島に漂着した人々について記述しています。
航海技術もまだ発展途上だった当時、一介の漁師たちが遭難したどり着いた孤島での生活を、筆者独自の目線も交えながら紹介しています。
その中で特に印象的だった部分を2箇所紹介します。
①漂着した人々が持つアホウドリへの思い
悲しむべき話だが、この島にいる限り、アホウドリを殺して食べる以外、生きる道はないのである。彼らは「若古郷エ帰リナハ此鳥エノ報恩ニ生涯鳥ハ食フマシ(もし故郷へ帰ることができたら、この鳥への報恩として、生涯鳥は食うまい)」と誓い、手作りの数珠を手に、鳥のための念仏を唱えた。
小林郁『新編 鳥島漂着物語 18世紀庶民の無人島体験』P.196
漂着者が鳥島ではアホウドリを食べる以外に飢えを凌ぐ方法がないと知った時、もしも本島に戻れたら2度と鶏肉を口にしない、と供養の念を思っていた場面。
窮地に追い込まれてなお宗教的観念を捨てずにいること、もしかしたら帰れるかもしれないという希望を持っていたこと、どちらも印象的です。
もしかしたら「動物を大事にしていたら神仏は自分を見捨てず助けてくれるかもしれない」とも思っていたかもしれません。
それでもこうして、鳥の命を思う気持ちがあったことが重要だと感じます。
②無人島漂流記が持つ魅力
無人島漂流記には、外国への漂流記とはまた違った価値があると私は思います。それは、ごく普通の人間がいきなり大自然のなかに投げ込まれてしまった時、何を考え、どんな行動をとったのかが克明に語られていることです。そこには不安や絶望、喜び、悲しみなど、いつの世も変わらない精神が描かれている一方で、今日とはだいぶ異なった人生観、宗教観、自然観などが垣間見えもします。当時の庶民の生々しい感情が、ごく一端ではあっても、そこに表れているという点において、無人島漂流記には外国漂流記に決して劣らない魅力があると思うのです。
小林郁『新編 鳥島漂着物語 18世紀庶民の無人島体験』P.268
作者あとがきからの引用です。
「漂流記」というジャンル自体をこの本で初めて触れた私にとって、同意しかない一文です。
連綿と続く人類史の一端に、平凡に暮らす私も、無人島に漂着し波瀾万丈の生活を営んだ彼らもいること。
外国漂流記では「同じ人間なのに言葉は通じない、文化も違う」という苦労がありますが、無人島漂流記には誰もいない孤独と大自然の脅威に揉まれる恐ろしさがあります。
いきなり大自然の中に放り込まれて、自分の力だけで生きることを強いられた彼らが何を考えて、どう生きたのかを知ることがこんなにも楽しく、また身にしみるとは思ってもいませんでした。
『新編 鳥島漂着物語』を読み終えた感想
鳥島に漂着した彼らの中には、生き延びて本島や故郷に帰れた者もいれば、生涯を鳥島で終えることとなった者もいました。
彼らの生死を分けたのは、次の3つの要素だと読み取りました。
- 体力
- アホウドリの肉の干物を作った漂流者たちが狩りに出かけなくなり、次第に体力が落ちていったエピソード
- 体力を鍛えることはもちろん、普段から動き回る癖をつけておきたい
- 武芸
- 生きるための仕事だけではなく、己を楽しませる技量が必要
- 世の中や生活に役立つことだけでなく、自分を楽しませるわざを持っていたほうがいい
- サバイバル能力
- 石をぶつけて狩りをしたり、雨水を溜めたり、食べられそうな植物を育てたり
- 自分で食住を手に入れる能力を身につけたほうがよい
こんなところで体力の重要性を思い知るとは…
しかし、「もし自分が無人島に漂着したら」という想いを馳せられるくらい、この漂流記にはリアリティがありました。
おわりに
以上、『新編 鳥島漂着物語』の読書感想文でした。
この本は普段歴史書は読まないという人にもおすすめできます。
小説であり、ライフハック本でもあり、歴史書でもあるこの本。当時の人々の行動も心境もリアルに映し出されるので、あらゆる学びがあるし、エンタテインメントとしても楽しめるからです。
漂流記がもつ魅力ももちろんですが、筆者の着眼点やまとめ方がうまいからこそこんなにも面白いのかなとも思います。
でも、他にも同様の漂流記があればぜひ読んでみたいです!